2015年1月12日月曜日

【特集】しむらまさと絵本『からすのチーズ』(アフリカキカク・2014)

 幼い心に笑いをよびおこしたり、高まりを感じさせたり、あるいは、体ぐるみ自由に動きまわらせてやることのできる物語を創ることは、意図的にはできないことのように思われます。(渡辺茂男)

 2015年になって、もう半月近くがたとうとしています。「道草のススメ」では元旦にご挨拶しましたが、あらためて、あけましておめでとうございます。今年も、また、よろしくお願いします。

 年末には、バタバタしていて、絵本『からすのチーズ』の詳しいご紹介も、できないままでした。そうこうしているうちに『アフリカ』最新号(第24号/2015年1月号)も完成して、珈琲焙煎舎での販売も開始しています。

 昨年の我が家は、光海の誕生と、彼(赤ん坊)との新たな日々に必死で、それ以外のことはよく覚えていない… というと大げさですけど、まぁそう言いたくなるような年でした。毎日、元気です。


 で、なにはともあれ、昨年のさいごの数ヶ月は『からすのチーズ』と共にありました。とはいえ、これから、末永く読み継がれる本になりますように。出版をする人としての本当の「仕事」は、これから、です。


 著者と、絵本(左)、そして初回限定版(スペシャル・セット)についている「ぬりえ&原画集」(右)、これは完成品が到着した直後の写真で、どうです? この顔!


 ニシダ印刷製本から届いた、できたてホヤホヤの絵本をもって、著者も出演するゴスペルクワイアCHOUB(シューブ)のクリスマス・コンサートへ行き、「先行販売」したのでした。お買い上げいただいた皆様、ほんとうにありがとうございます。こどもたちが集ってきて、手にとって読んでいる場面が、なんだか忘れられません。最近、ぼくは本を売る本当の現場からは遠のいていたような気がしました。嬉しいものですね。

 雑誌とちがって、これは、あるていど長い時間をかけて(細々と?)売っていこうと思います。どう売っていくかは、目下、画策中。細かい事情を書きたいところですけど、本を買い、読む人には、ある意味では関係のない話なので今回は省略。

 そんなことより、絵本『からすのチーズ』の紹介を!(何それ? という方は、スペシャル・サイトからご覧くださいネ。)


 かわいいサイズです。A5ヨコ。まー、何の変哲もない(?)無線綴じのソフト・カバーですが… これ、じつはかなり考えた結果で。書店の絵本コーナーに行くと、何とも重たい本ばっかりなんですね! いまの日本の書店に限った話かもしれません。本の「保存」に重きが置かれているんでしょう。「読む」ことには、「保存」に比べたら重きが置かれていないというのがよくわかります。本が売れないと嘆きつづけて早ウン十年の業界が、「読む」より「保存」に大きな力をかけて本づくりをしている、これ滑稽な気もしますよワタクシは。それは絵本に限らない話でしょうけど、絵本の造本にすごくよく現れていると思いました。今回、絵本をつくろうとして絵本の勉強をした結果、やってきた気づき、でした。


 とはいえ、海外には軽い造本の絵本もたくさんあります。あの『はらぺこあおむし』だって、日本で売られている本は重たいハードカバーの本ですが、素晴らしくセンスがよくて軽い造本の英語版をみつけました。『からすのチーズ』と同じサイズで、やわらかい表紙の絵本もうちにはいくつかありました。日本にも、以前は軽い絵本がたくさん存在していた模様で、古本屋に行くとイロイロ勉強になります。いまみたいに重たい絵本ばかり売り出したのはいつ頃かな? やっぱりバブルの時代かなぁ。もしそうなら、お金があって良かったこともイロイロあるでしょうけど、これは良くなかったことに挙げたい。


 本のなかのほうはですね、事前にはあんまり見せたくないよねー、と言いながらつくっていました。なので、ここでも、まだもったいぶります。今回の絵本の「顔」として最初から登場してもらっていた「チーズをくわえて飛ぶからす」のページは、こんな感じ。

 著者のしむらまさと君、えんぴつによる原画だけじゃなくて、物語と、この文字もすべて彼の手によるものです。知的障害とか自閉症とかと呼ばれる障害のある彼ですが、へー、彼には「世界」がこう見えているのかー、ということが垣間見える一作、と言ってもよさそうな気がしています。

 でも、そんな距離をおいた見方は、じつはあんまりしていない、普段は。この絵本は、じつは出版者であり編集者であるぼく自身にも、何度も何度も問いかけてくる本です。

 『イソップ童話』に、からすときつねの話があり、その話を、しむらまさと流に読み取った、とも言えそうな気がしますが、彼にはそんな気はないかも? 彼には、これこそが『からすときつね』なのかもしれないし…

 でも、いまに伝わる『イソップ童話』とは、何か決定的な部分がちがいます。さ、それは何でしょう? それは経済の問題にもつながるし、文学の問題ともつながるし、もちろん福祉の問題ともつながるし、じつは、何にだってつながっているのだ、と思いながらつくり、できてからも、我が子に読み聞かせながら、たまに思っています。(10ヶ月歳の光海には、そんなこと言われても、かあかあ、でしょうけど、笑。)


 初回限定版(スペシャル・セット)のグッズは、こんな感じ。バッジ2種(「からす」と「おひさま」)、ポストカード5種(絵本のなかの絵4枚に著者の写真1枚)、ありがとうカード1枚(「これが力作なんだ」byしむら母)。それから…


 アフリカキカク得意のモノクロ冊子「ぬりえ&原画集」、これが貴重な一冊なんです。装丁は、雑誌『アフリカ』のエッセイ漫画でお馴染みの高城青。編集・ページデザイン・その他雑用は絵本と同様に下窪で、短い解説も書いてます。


 絵本は、著者がえんぴつで書いた絵を使って、色をつけてつくっているのですが、ここに載せたのは、原画および制作途中のデータ。後半のページは「ぬりえ」としても使えるようになっています。もちろん「ぬりえ」をしなくても、ある種の「資料」として貴重なものになると思っています。

 何はともあれ、絵が、いいんです。障害者の描いた… とか関係ないよ。ぜひご覧いただきたいと思っています。

(ただし、スペシャル・セットは、残部が少なくなってきていますので、ぜひ欲しいという方はお早めに!)
 

 というわけで、よろしくねー。(写真は、「先行販売」のブースにて、ピエロのようへい君とまさと君のツーショット!)

 ところで、光海との日々や、『からすのチーズ』を通して、絵本にすごく興味が深まってしまって、いろいろ読んでます。本屋に行っても絵本コーナーはチェックするようになってます。少し前まで考えられなかったことですけど、笑。


 そうこうしていたら、光海へのクリスマス・プレゼントがぼくの実家の母から届き、なんと! ぼくが幼いころ夢中で読んだ二冊の絵本が! どちらも「わたなべしげお」さん作の絵本です。『しょうぼうじどうしゃ じぷた』は、ずっと忘れてなかった、心のなかにしまってありました。現物は読みすぎてページがはがれ、痛んでいたようですが、今回、両親がきれいに整えてくれました(色が素晴らしいです、これ今の印刷では出せないかも?)。「くまたくん」の『ぼくまいごになったんだ』は、忘れていましたが、見た瞬間にわかりました、数十年ぶりの再会です。なつかしい。

 それから、このお正月には、それら絵本の作者・渡辺茂男さんのエッセイ集『心に緑の種をまく』(新潮文庫)との嬉しい出会いもありました。

 彼の絵本の子だったぼくが、大人になり、ふたたび絵本の世界に帰ってきました。

 ぼくの本づくりの、今後に、すごく大きな光を投げかけてくれています。